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『何もかも憂鬱な夜に』 中村文則 【読書感想】

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『何もかも憂鬱な夜に』あらすじ

施設で育った刑務官の「僕」は、夫婦を刺殺した二十歳の未決囚・山井を担当している。一週間後に迫る控訴期限が切れれば死刑が確定するが、山井はまだ語らない何かを隠している―。どこか自分に似た山井と接する中で、「僕」が抱える、自殺した友人の記憶、大切な恩師とのやりとり、自分の中の混沌が描き出される。芥川賞作家が重大犯罪と死刑制度、生と死、そして希望と真摯に向き合った長編小説。 — 本書より引用

読書感想

聖夜の前にふさわしいか迷ったが、買い置きしておいた本作を読み始めた。

主人公は施設で育ち、幼い日に親友を亡くした。

その後、刑務官として働き、死刑判決を受けた少年とのかかわりから自身の幼い日の記憶と向き合っていく。

人間の死を通して命とは何かを問われる場面が多い。

主人公の上司である刑務官の独白が胸を突いた。

俺達の仕事は、いいか?殺した者と、殺された者の間に、否応なく、入ることなんだよ。これが仕事だ。だからいい。でもな、それが不確かだ、というのが耐えられない。 — 本書より引用

俺が言いたいのは、死刑を、もっと確かなものにして欲しいということだよ。マスコミや世間が騒ぐか騒がないかで、影響されるようじゃたまらない。 — 本書より引用

十八歳を一日でも過ぎれば死刑で、一日でも達してなければ死刑にできない。大体、十八歳ってなんだ。 — 本書より引用

俺達刑務官が、あんなに必死でやる死刑という人殺しの理由が、こんなに不確かなのはたまらない。 — 本書より引用

死刑執行のニュースを見て、どんな犯罪があったか、被害者・加害者はどんな人物であったかを調べることはあった。だが執行に携わる人達がおり、そこにはそれぞれの思いがあるのだという想像力が働いたことは無かった。

逮捕、裁判、勾留、執行と多くの人が関わる「死刑制度」という大掛かりな装置はなんなのか、 最初に死刑を制度化した人間たちは何を目指したのか。

死刑制度を排した国の人々は、罪人が犯した罪と死は結びつかないと結論したのだろうか。

主人公の薄暗い胸の内が露呈しそうな場面で、「あの人」と称される施設時代に関わったある人の記憶が、気持ちを諌める。

自分にはそういう人はいるだろうか。

暗く孤独に満ちた人生を送る主人公だが、「あの人」との記憶はとてもうらやましいものだった。

中学卒業の時、自分は孤児でよかった、あなたに会えたと「あの人」に伝える場面ではもらい泣きをした。

主人公が刑務官として接した「山井」はいずれ死刑になるのだろう。

それでも、主人公は山井の命を救ったのだと感じられる。

そして救う行為によりなりたかったあの人に、彼はなったのだと思う。

著者について

中村/文則 1977年愛知県生まれ。福島大学卒業。2002年『銃』で新潮新人賞を受賞してデビュー。04年『遮光』で野間文芸新人賞、05年『土の中の子供』で芥川賞、10年『掏摸』で大江健三郎賞を受賞。 — 本書より引用

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