『棘の街』 堂場瞬一 【読書感想】
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棘の街(とげのまち)のあらすじ
地方都市・北嶺での誘拐事件は、県警捜査一課の敏腕刑事・上條のミスにより被害者が殺害され、捜査が行き詰まっていた。自らの誇りを取り戻すため捜査に邁進する彼の前に現れた少年。その出会いが彼が封印してきた過去を解き始めた時、事件は意外な姿を見せる…。己の存在意義、組織と個人、親と子。様様に揺れる心情を丹念に描く傑作警察小説。 — 本書より引用
小説の感想
600ページ近くある長編であったが、あっという間に読み終えてしまった。とても読みやすい文体だとあらためて感じる。
キーワードは「父子」と「故郷」、というよりは「地元」と言ったほうがふさわしいか。
主人公の刑事「上条元」は、かつて父と確執し、生まれ育った地元を嫌い、早くから自立し地元を離れ警察官となる。
しかし、妻を亡くす不幸に見まわれ、その後、自身も我が息子と縁遠くなる。だがある事件をきっかけに、再び地元へと帰り事件解決に挑む。
東京まで2時間、とくに特徴も持たない関東近郊の住宅都市が舞台であり、主人公は折につけ地元への呪詛を口にする。
決定的な悪い部分があるわけでもない、何もない無気力な空気感がどうしようもなく堪らないのであろう。
読みながら私が育った街のことを思い出した。都心まで1時間弱、高度成長期に都内へ労働力を供給するため東京湾岸部を埋め立てられた土地である。
歴史もなく、住宅がひたすら建ち並び、湾岸部を高速道路と倉庫が埋め尽くした街並みは今も好きになれず、めったに立ち寄ることも無くなってしまった。
できるだけ早く、できるだけ遠くへ行きたいと主人公と同様に思い、高校卒業とともに地元を離れたときは、ようやく脱出できたと思いを噛み締めたことを思い出す。
読書感想から逸れてしまった。
本作で著者の作品3冊目となる。
変に読者へトリックを見せつけるようなところがなく好感をもっているのだが、本作では主人公の気持ちや行動が最後まで理解することができず消化不良となってしまった。
後半からそれまで大変慎重であった犯人達、上条刑事の行動が、急激に描写が粗いものとなり気が削がれてしまったのかもしれない。
歳をとり多様な人間感情がわからなくなっているのか、読解力不足なのか、何とももやもやしたものである。
しかしまだ3作、著作のごく一部であり、至福の読書時間を求めてまた別の作品を読んでみたいと思う。
著者について
堂場/瞬一 1963年茨城県生まれ。新聞社勤務のかたわら小説を執筆し、2000年「8年」で第13回小説すばる新人賞を受賞。その後、意欲的に作品を発表し続け、警察小説の旗手として注目を集める。 — 本書より引用