『人形遣い 事件分析官アーベル&クリスト』ライナー・レフラー【読書感想】
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あらすじ
ドイツ、ケルンで続く猟奇殺人事件。被害者はいずれも腕や脚など、体の一部や内臓が失われていたため、〈解体屋〉事件と名づけられた。遺体とふたりきりになり、その声を聞くという独特な手法で捜査にあたる変人事件分析官アーベルと、その行動に戸惑い反発する若き女性分析官クリスト。ふたりが挑む「人形遣い」と名乗る犯人は何者なのか? ドイツミステリ界の大型新人登場! — 本書より引用
読書感想
読みどころ
- 町と自然が共存する美しいドイツの町ケルンを舞台にしたドイツミステリ作品。
- 人形遣いと呼ばれる過去のトラウマから連続殺人を行う恐ろしきシリアルキラーと警察との見応えある駆け引き。(攻殻機動隊の人形遣いとは関係ない)
- かなりクセのある主人公の事件分析官アーベルと強気の助手である女性分析官クリスト。個性あふれるこのコンビがたまらなくいい。
いまもっとも(私の中で)注目の町ケルン〈ドイツ〉
荘厳で美しいケルン大聖堂があり、ライン川を挟んで両岸に広がる町「ケルン」。 大好きな漫画「MASTERキートン」にもチラッと出てくる町「ケルン」。
(たしか2巻の『貴婦人との旅』で汽車の窓から大聖堂が見える)ドイツではじめて日本人サッカー選手を受け入れたサッカーチームがある町「ケルン」。
行ったことはない。ないけれど、私にとってもっとも訪れてみたい町No.1のケルン。ネットで景色や町の情報などを頻繁に読む機会はあるのだが、物語として、町で生きる人の視点でケルンが描かれているものを読んでみたいと思っていたところ、「ケルン 小説」で偶然見つかったことで本作品を読むにいたった。
はじめて読むドイツミステリ
ミステリ作品において、国の違いを顕著に感じるポイントのひとつに警察システムがある。
解説でも訳者によって詳しく説明があるのだが、ドイツにはアメリカのFBIなどで有名なプロファイリングを行う事件分析官という役割の捜査官がいるとのこと。
FBIのプロファイラーと異なり、ドイツでは捜査権限のある者が事件の分析の一部としてプロファイルを行い、この小説時点でドイツ国内に90人ほどだという。
そしてこの物語の主人公はこの事件分析官を担う男である。
町の描写にテンションがあがる
冒頭、仲のいい一家がクレッテンベルクの川のほとりにある森へバーベキューへと出かける。美しい川と森、和気あいあいと過ごす家族に心温まる。
しかし、腐乱死体が見つかる。
ドイツのサッカーリーグ、ブンデスリーガに所属するケルンチームのホームスタジアムであるラインエネルギーシュタディオン
(RheinEnergieStadion)が登場し、テンションがあがる。
しかし、誘拐現場となった駐車場の近くとしての描写だ。
知識として知る風景が登場するたびに浮き浮きするのだが、逐一無残な具合になり、これはミステリ作品だと受け入れるのに少し時間がかかった。
シリアルキラー人形遣い
攻殻機動隊は関係ない。(個人的に攻殻機動隊が大好き)
なので、本作の人形遣いはネットワークが生み出したものではなく、現実に酷い母親と狂った義父という環境で、子ども時代に受けたトラウマが作り出してしまったモンスターである。
被害者は成人の男女である。外科的な技術により切開され内臓の一部が抜き取られている。丁寧に血も抜き取られており、また頭部や腕など一部が切断されている。
ターゲットの選定や、殺害方法などには人形遣いのトラウマがひとつひとつ関係しており、それは話中に差し挟まれる彼の過去によって徐々に明らかとなる。そして、すべてのエピソードが重い。その生々しさゆえに、シリアルキラーになるのも仕方ないなーと思ってしまいそうになる。
犯人とおぼしき人物は冒頭から出てくるような気がするのだが、そのあたり、著者が巧みにフェイクを仕掛けてくるのでサスペンスとしての楽しみを味わうことができる。
ホームズとワトソンの男女版ペア
変人天才事件分析官アーベルが主人公。彼の管轄の隣町ケルンで起きた人形遣い事件のヘルプとして呼ばれる。その際、上司のフランクに助手としてクリストという女性捜査官を連れていくよう頼まれる。彼女は実は……。
クリストは捜査官としてとても優秀であるのだが、大の変人であるアーベルとはなかなか打ち解け合うこともなく、協力体制が組まれるにも時間がかかる。
しかし、クリストはとても勝ち気で物おじせず発言するなど、彼らのやり取りから、変人ホームズと助手のワトソンのコンビを思い出す。
違いは助手の性別ぐらいか。だが、この違いはとても重要で、これは予想がつかない結末となるのが何とも良かった。
ミステリ作品の好きなところ
個人的に屈折感があり犯人とのシンクロ率を高め犯人の行動を予見して事件を解決してゆくような変人捜査官が好きだ。 探偵であるがホームズしかり、その女アレックスなどに登場するカミーユ・ヴェルーヴェンなど。
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そして、追うものと追われるもののシンクロ率が100%に達したとき、事件が解決にいたる。 追う側は犯人を知ることで事件を解き、追われる者は自分の最大の理解者であると錯覚してゆく。
皮肉にも、家族より、誰より、彼らは互いに最大の理解者足りえる存在になっていく一面がある。これが犯罪ミステリの醍醐味だと思っている。
まだ知らない作品が世界中に存在し、これからも生み出され続けるのだと思うとワクワクが止まらない。
著者・訳者について
ライナー・レフラー Rainer Loffler
1961年、ドイツ、バーデン・ヴェルテンベルク州生まれ。50歳で本書を発表するまでスーパーやガソリンスタンドの店長、機械工などの仕事を転々とした。仕事の傍ら、1985年から87年まで、ドイツ版「MAD」誌に寄稿し、98年からはライナー・ハンチュクのペンネームで世界最長のSF小説シリーズとして知られる〈宇宙英雄ローダン〉シリーズのファンによる二次作品や、同シリーズから派生した〈アトラン〉シリーズの書き手のひとりとして健筆をふるったこともある。 — 本書より引用
酒寄進一さかよりしんいち
ドイツ文学翻訳家。主な訳書にイーザウ〈ネシャン・サーガ〉シリーズ、「緋色の楽譜」、フォン・シーラッハ「犯罪」「罪悪」「コリーニ事件」「禁忌」、キザンブール「幽霊ピアニスト事件」、ノイハウス「深い疵」「白雪姫には死んでもらう」他。 — 本書より引用
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