『特捜部Q キジ殺し』~デンマーク発ミステリー【読書感想】
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あらすじ
いったいこの書類はどこから送られてきたんだ? いつのまにか特捜部Qのデスクに置かれていた20年も前の事件の書類。18歳と17歳の兄妹が惨殺された事件だが、その後犯人は自首して服役中。つまり未解決事件ではない。なのになぜ未解決事件を調査する特捜部Qに? 興味を抱いたカールとアサド、それに新メンバーのローセは再調査に取り組むが、当時の容疑者たちはいまや有力者に……ますますパワーアップの人気シリーズ第2弾 — 本書より引用
読書感想
読みどころ
- 未解決事件を専門に捜査を行う「特捜部Q」が、デンマークにおける特権階級の闇を暴く長編ミステリ小説。
- シリーズ第2作目にして新メンバが新たに加わったが……、やはり変人だった。
- 著者近影の写真から漏れ伝わってくるとおり、前作に引き続き事件における暴力性が凄まじい。
ネタばれを含む特捜部Qシリーズ第2作目の感想
本作品は、デンマークにおける未解決事件を解決するという名目で、半ば強引に設けられた「特捜部Q」という微妙な名前の捜査本部が活躍するミステリ作品である。 そしてシリーズものとして続いており、このあたりの経緯は前作の第1作目で詳しく語られている。
『特捜部Q 檻の中の女』 ~デンマーク発のミステリーシリーズ~ 【読書感想・あらすじ】
特捜部Q―檻の中の女― (ユッシ・エーズラ・オールスン) のあらすじと感想。捜査への情熱をすっかり失っていたコペンハーゲン警察のはみ出し刑事カール・マークは新設部署の統率を命じられた。とはいってもオフィスは窓もない地下室、部下はシリア系の変人アサドの一人だけだったが。
前作に続きひと癖ある特捜部Qのリーダーであるカールと謎多きシリア系移民のアサドに加え、本作ではローセ・クヌスンという新人ならぬ変人が加わり地下の捜査本部はより混乱に満ち満ちている。
とにかく凄惨な事件と壮絶な運命の女性が事件の象徴となるシリーズ
前作では、数年にわたり徐々に気圧が下がっていく密室にとじこめられた女性が事細かに描写されていた。
今回は、少女時代に虐待を受け学生時代に少年たちから幾度もレイプされ、妊娠した子どもを仲間の暴力により流産し、多重人格障害の様相を呈する女性が自らの力で過去を清算していくという凄まじい物語が繰り広げられる。
そもそも特捜部Qが取り組んだのは、すでに判決が出ている事件に疑いがあるとの情報が入り、その疑惑はさらに他の未解決事件へと繋がるという何とも複雑な話が発端だった。
そして調べを進めていくと、事件にかかわりがある人物はいずれもデンマークにおける著名人で、彼らは同じパブリックスクールの同級生であることがわかった。
優秀な頭脳と恵まれた環境を若いころから手にしていた彼らは、裏ではいくつもの問題を起こしていた。そして、その場所にはいつも「キミー」という一人の女性も含まれていた。
彼らはキミーを散々利用したあげく、過去を封印し社会における地位と名誉を盤石のものとしていったのだが、キミーは自身の子どもを流産させられたことから復讐へと立ち上がった。彼女の復讐とは、そう、彼女へ暴力をふるった人間を一人一人始末することだった……。
シリーズとしての物語、本作品の物語、楽しみな次回作品
主に、カールたちの捜査、胸糞悪い著名人グループ、キミーの3つの視点が入れ替わりながら話が展開する。
クライマックスは物語の最後の最後に訪れるので、やや長く感じる作品かもしれないが、終盤のひしひしと迫りくる緊張感ある展開は読みごたえがある。
そして、何ともやり切れない気持ちになる点もこれはシリーズ特有か。ただの痛快ストーリーとはならない複雑さがある。わたしはそこが好きだったりする。
カール自身のストーリーもいくらか進展する。
前作で明らかになっていた脊髄を損傷した同僚、魅惑のカウンセラーとの関係、今回はお休みかなと思ってたら愛人と別居中の妻は最後の最後でやってきた。
北欧というイメージとは程遠いバイオレンスっぷりが魅力の作品だが、あとがきで恩田陸さんが述べているとおりデンマークは海の荒くれものバイキングの国だった。
「デンマーク」「バイキング」を描いた漫画
思えばいま連載中で読んでいるバイキングの漫画「ヴィンランド・サガ」は荒くれもののオンパレードだ。
デンマークって案外ワイルドな土地柄なのかもねと、ふと著者近影を見るとまさにバイキングじゃないか!ということで次回作もさっそく読んでみようと思う。
著者について
ユッシ・エーズラ・オールスン 1950年、コペンハーゲン生まれ。10代後半から薬学や映画製作などを学び、出版業界などで働く。1985年からはコミックやコメディの研究書を執筆。その後フィクションに転じ、シリーズ第1作の『特捜部Q―檻の中の女―』(2007年)がベストセラーとなった。その後、2009年に発表したシリーズ第3作である『特捜部Q―Pからのメッセージ―』で、北欧ミステリの最高峰である「ガラスの鍵」賞を受賞している。シリーズ最新作は2012年発表の第5作Marco Effekten。 — 本書より引用