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『憲法への招待 新版』 渋谷秀樹 【読書感想】

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内容

「憲法は私たちが守らなくてはならないものか」「憲法改正手続を定める憲法九六条は改正できるか」「日本の上空を通過する他国を攻撃するミサイルを撃ち落とすことは合憲か」など、24の問いに答えながら、日本国憲法の思想と骨格を平明に解説。社会問題となっている事象と憲法との関係をときほぐす、市民のための憲法入門。 — 本書より引用

読書感想

読みどころ

  • とっつきにくい「憲法」について身近なできごとに絡めてわかりやすい文章で教えてくれる。
  • 憲法の成り立ちをふり返りなぜ人類は人権や福祉といった思想を持つに至ったかがわかる。
  • ニュースで「憲法改正」の話を耳にするようになった昨今、(私のように)ついていけない人にぴったりの入門良書。

本書を読むキッカケ

普段身近に感じることが少なく知る機会もなかなかない「日本国憲法」。

学生時代にしっかりと教わった記憶もなく、何かの機会にかなり努力をしないと一向にわからないモノとして認識していた。

毎度選挙のたびに関心を高めるため何かしらの政治や法学に関する本をめくるのだが、最近聞かれる「憲法改正」とは何が問題なのかがさっぱりであった。

このたび突如行われることとなった衆議院解散総選挙に乗じて少しでも知ろうとあがいてみようと本書を手に取ってみた。

憲法とは空気のようなものである

日本で暮らすすべての人に影響を及ぼしているのだろう「日本国憲法」。だが仕事や研究で日常的にかかわる人を除けば、実感は極めて薄いことが予想される。

本書の冒頭でなるほどと理解を促してくれる文章があった。

よく、「憲法とは空気のようなものである」と言われます。空気は、生物が生きていく上で欠くことのできない重要なものですが、空気を吸ったり吐いたりすることが私たちの意識にのぼることはほとんどありません。ところが、空気が汚染されたり、酸素濃度が低下したりすると、たちまちその存在を意識せざるをえなくなる。空気に対する無意識の状態が、私たちと空気との最もよい関係を表しているとも言えるでしょう。 — 本書より引用

なるほど。

ではニュースなどでその存在が話題にのぼることはつまり、私たちと憲法の「もっともよい関係」に何らかの変化が起きていることを意味していることか。

そしてその変化とは何か。

そのためにはまずそもそもを理解する必要があり、本書はその第一歩をやさしく支援してくれる。

身近な例、わかりやすい文章

憲法、法学など政治にかかわることは専門用語や独特な言い回しなどもあり大変とっつきにくい。

本書のよいポイントのひとつは身近なできごとと憲法の関係性を例にあげ、それをわかりやすい文章で解説していることだ。

例として用いられているもの目次からザっと列挙してみる。

  • いじめ
  • 知る権利
  • 女性の再婚
  • 日の丸と君が代
  • 総理大臣の靖国訪問
  • 無修正ポルノ
  • 犯罪者の権利
  • 都市計画による補償
  • 生活保護の支給額

そしてその内容では関連する細かな例がいくつも登場し、その範囲は多岐に渡る。

憲法とはこの国で暮らすわれわれのありとあらゆる部分に影響があるものだと実感させられる。

憲法誕生の歴史的経緯

ふだん空気のような存在でありながらわれわれの生活の隅々にまで関係する憲法とはどのように生まれたのか。

本書では日本の憲法のみならず、そもそも人類が憲法を生み出した経緯を振り返る。

そのことにより、一部のものが国を支配していた時代からやがて市民が力を持つようになり、そして世界中で戦争に明け暮れた人類の経験が、憲法に注ぎ込まれているのだと知ることができる。

世界のすべての国が立憲主義に基づいたものではないが、つまり増えに増えた人間たちがより賢く共存していくために生まれたひとつの知恵が憲法という具合だろうか。

大変有用な憲法の入門書

憲法の話題は中途半端に情報を得ようとすると両極の極論ばかりが目につき一向に理解の助けとはならない。

まずはそもそも憲法とはなにかをつかみ、そして何が起きているのかを理解していくのが良いのではないかと考えている。

日常の暮らしの中でなんとなく理解していることが明文化されており、それらを読むことではっきりと理解につながる本書は良き入門書だった。

著者について

渋谷秀樹
1955年兵庫県加古川市生まれ
1984年東京大学大学院法学政治学研究科博士課程満期退学
2013年博士(法学)(大阪大学論文博士)
現在ー立教大学大学院法務研究科教授
著書ー『憲法訴訟要件論』(信山社出版)
   『日本国憲法の論じ方』
   『憲法』(以上、有斐閣)ほか
共著ー『リーディングズ現代の憲法』(日本評論社)
   『憲法1 人権』『憲法2 統治』(有斐閣)ほか — 本書より引用

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