『特捜部Q Pからのメッセージ』~デンマーク発ミステリー【読書感想】
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あらすじ
その手紙は、ビンに収められたまま何年間も海中にあり、引き揚げられてからもすっかり忘れ去られていた。だがスコットランド警察からはるばる特捜部Qへとその手紙が届いたとき、捜査の歯車が動き出す。手紙の冒頭には悲痛な叫びが記されていたのだ。「助けて」いまひとつ乗り気でないカールをよそに、二人の助手アサドとローセは判読不明のメッセージに取り組む。やがておぼろげながら、恐るべき犯罪の存在が明らかに…… — 本書より引用
読書感想
読みどころ
- 未解決事件を専門に捜査を行う「特捜部Q」シリーズの第三作目で北欧最高のミステリ賞「ガラスの鍵賞」受賞作。
- 切れ味鋭い捜査と皮肉がトレードマークの「カール・マーク」を筆頭に個性あふれるいつものメンバーたちのやり取りは毎度楽しませてくれる。
- 古い事件の端緒のつかみから現在進行形の事件へとつながっていく展開は非常にスリリング。
特捜部Qシリーズを読み続けるか否か悩んでいたけれど
個性際立つキャラクター設定、はじめて挑む北欧ミステリの新鮮さ、1作目で一気に虜になった。しかし二作目でやや逡巡し、三作目はどうしようかと放置していた。
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特捜部Q―キジ殺し― (ユッシ・エーズラ・オールスン) あらすじと感想。いったいこの書類はどこから送られてきたんだ? いつのまにか特捜部Qのデスクに置かれていた20年も前の事件の書類。18歳と17歳の兄妹が惨殺された事件だが、その後犯人は自首して服役中。つまり未解決事件ではない。
だが読書メーターでは「おもしろかった!」の声をしばしば目にするしやはり気になって仕方なかった。
三作目にして(その凄さは詳しく知らないが)北欧ミステリの最高賞を受賞したという本作の威力たるや、それは素晴らしいものであった。
「復讐だ」
今作もまた犯人が引き起こすおぞましい事件の根底には轟々と燃え盛る復讐の炎が渦巻いていた。この点は本シリーズの特徴の1つとも言える。
著者の写真を見ると、失礼ながら前職がバイキングと言われても納得してしまいそうなご尊顔。(海の荒くれ者バイキングはデンマークがルーツ)
デンマークという土地柄に何か関係しているのだろうか、復讐の原因に同情する余地を吹き飛ばすほどの胸糞悪い犯罪が毎回登場し作品の緊張感を極限まで高めている。
「特捜部Q」
そしてそれら凶悪事件に挑むのが本シリーズの主役「カール・マーク」が率いる「特捜部Q」である。
このチームはデンマークの未解決事件を掘り起こし解決するための特別部隊として設立された。
リーダーのカールは過去に部下一名が命を落とし、他一名が全身の自由を失う重症を負う事件に遭遇した。その時に身体的に無事だった彼には負い目となり、深いトラウマを背負うこととなる。
そんな背景からとてもシリアスな雰囲気漂うキャラクターかと言えばまったく違う。
いつも心の中で毒を吐き、常にひと言多く皮肉に満ちている。
妻は毎回新しい愛人と外で暮らし息子はフリーダム。
陽気で空気を読まない下宿人モーデンと、全身が不自由なかつての部下ハーディを介護ベットごと引き取り心休まらない暮らしを送っている。
部下の面々も強者揃いだ。
自称シリア出身の「アサド」は正式には警察官ではないにもかかわらず、毎回事件解決において重要な働きを見せる。
だが問題は多く謎の甘過ぎる飲み物と菓子を勧めてくるのみならず、とにかく謎が多い。
どこかで明らかになりのではと期待しているが、今回も謎は深まりばかりだった。
紅一点の「ローセ」は、その強烈すぎる個性と物言いにカールが毎回手を焼く御仁だが、今回はさらにやっかいな一面を覗かせることとなる。
ローセが欠勤し代わりに出勤してきた双子の姉妹だという「ユアサ」、なんのこっちゃだが驚きの展開で楽しませてくれる。
彼らの珍妙なやり取りは、凶悪な事件で暗くなりがちな物語における清涼剤となる。
そして、そんな彼らだからこそ困難な事件を乗り越えていけるのかもしれない。
古いボトルメールから幕を開けるミステリ
デンマークから離れたスコットランドの海岸で拾われ、その後も放置されていた瓶に収められていた手紙は必死に助けを呼ぶものだった。
書かれたのは15年も前で、そのほとんどは消えかかっていた。
本作の副題「Pからのメッセージ」とは、イニシャル「P」の人物が海に流したこのボトルメールのことである。
これまで誰にも知られることなく埋もれていた事件が日の目を浴び、その謎に特捜部Qが挑む。
そしてそれは過去の一事件に留まらず現在も進行中である恐ろしい事実が明らかとなる。
過去と現在がつながる展開も、未解決事件を専門とする本シリーズの目玉であるが、今回は過去の事件とはいえ認知されていないものを掘り起こしていく違いがある。
散らばった過去と現在のピースを紐解いていく前半と、ジェットコースターのように加速する後半の落差がエンタメ要素を増幅する装置となり、上下巻の長さを感じさせない秀逸なミステリ作品に仕立て上げている。
本シリーズは五作目まで発表されている。
楽しみはまだ続く。
映画作品について
今年の作品(2017)ということでまだ新しいが映画化されている。過去のシリーズ作品も映像化されており、原作とともに人気作のようだ。
「北欧」と一括にしてよいかわからないが、「ドラゴンタトゥーの女」のスウェーデン版「ミレニアム」など好きな北欧ミステリ映画は多い。
数が多いハリウッドとは異なる魅力がある。
著者について
ユッシ・エーズラ・オールスン
1950年、コペンハーゲン生まれ。10代後半から薬学や映画製作などを学び、出版業界などで働く。1985年からはコミックやコメディの研究書を執筆。その後フィクションに転じ、シリーズ第1作の『特捜部Q―檻の中の女―』(2007年) がベストセラーとなった。その後、2009年に発表したシリーズ第3作である本書で、北欧ミステリの最高峰である「ガラスの鍵」賞を受賞している。シリーズ最新作は2012年発表の第5作Marco Effekten。 — 本書より引用