『サピエンス全史』 ユヴァル・ノア・ハラリ 【読書感想】
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あらすじ
アフリカでほそぼそと暮らしていたホモ・サピエンスが、食物連鎖の頂点に立ち、文明を築いたのはなぜか。その答えを解く鍵は「虚構」にある。我々が当たり前のように信じている国家や国民、企業や法律、さらには人権や平等といった考えまでもが虚構であり、虚構こそが見知らぬ人同志が協力することを可能にしたのだ。やがて人類は農耕を始めたが、農業革命は狩猟採集社会よりも苛酷な生活を人類に強いた、史上最大の詐欺だった。そして歴史は統一へと向かう。その原動力の一つが、究極の虚構であり、最も効率的な相互信頼の制度である貨幣だった。なぜ我々はこのような世界に生きているのかを読み解く、記念碑的名著! — 本書(上巻)より引用
読書感想
序
ようやく読み始め、ようやく読み終えた。
内容はあらすじにある通り、取るに足らない種の一種であった我々の祖先が遺伝子を解し、神にとって代わり、新たな種を生み出すことも不可能ではない現在へ到達するまでの経緯・現時点での結果。そして少し先の未来についてが語られた作品である。
学術書としては物足りぬのかもしれないが、私のような一般人がついて行けるレベルの文章で綴られているのでありがたい。つまり、多くの人が読めるように、著者や訳者や編集の方々がとても頑張ったのだ。きっと。ありがたい。
このことはとても重要だと思っている。なぜかと言えば、多くの人が読むことのできる構成は、書籍としての価値の多くを占めていると思うから。
書かれていることはいわゆるユヴァル氏の「説」であり、すべてが正しいとか間違ってるとかはさて置き、身近なところで感じる疑問の理由を知る、あるいは考えるヒントを得る場面が多く読書中も読後の空想もとても楽しかった。
つまり、読書という手段を通じ、私はどのような社会(世界)で生活し、どのような存在であるかを体感したらとてもよかった!というお話し。
ホモ・サピエンスの進化を飛躍させた「認知革命」の要因「虚構」
「虚構」という言葉が上巻序盤で頻出する。
何かといえば、イデオロギーや経済を構成する通貨、株式、企業などなどは、つまり実体のない概念上の存在を、私たちはみな当たり前のように語り利用している。でもなぜ?つまり共同体として「虚構」を共有することができる能力を持ち合わせたことが、他の種を大きく引き離す進化を手にするキッカケだったのでは!という。
これまで道具を器用に使いこなしてとか、火を使いこなしてとか、そんなレベルでしか人類の進化のキッカケ的なものを知らなかった私にとって(説明がバカですまん)、もうワクワクが止まらない。ちなみにこのあたりの話は「認知革命」と称して語られている
「農業革命」から始まる「〇〇革命」がもたらしたこと
その後、それまでの採取狩猟生活から、農耕を主体とした生活へと移行する話は、学生が学ぶ歴史の授業レベルで何となしに知ってはいた。が、本書では「農業革命」として語られるこの大きな変化は、ただ食物が安定的に採れるからいいねとかそういう長閑な話ではないのがよい。おもしろい。
それは、狩猟採集生活では許容されていた「個」の存在よりも、人類全体としての繁栄の優先度が増幅していくキッカケであったという話し。
「農業革命」以降、「産業革命」(これは知ってる)、「科学革命」、なによりも貨幣の発明など、インパクトの大きい出来事はありつつも、この大きなシフトチェンジは「農業革命」が最初のトリガーだというそのあたりの話が興味深いことこの上ない。
自分を含む人類の話しだと分かりつつも、子どものころに手塚治虫の「火の鳥」をはじめて読んだ時のような興奮がよみがえる。
近代から現代の分析、そして科学は謙虚
下巻では、現代で今なお多くの問題となっている紛争や差別の直接的な要因となった近代へと話しは進んでいく。
科学の進歩は、理由はわからずとも必然的に起こったことなんだろうと分かった気になっていたことの1つであったが、「科学革命」とは何ぞという話しがよい。
それまで人類は、この世のわからないことはすべて神のしわざ的な、根拠のない物語で埋めてきた。
一方、科学の偉いところは、この世界のあれこれを、私たちは現時点では分からんのだ!ということを認めた「無知の革命」であるという話し。
分からんのだから、調査して研究して証明しよう!そうしよう!
現代では当たり前の話ではあるけれど、人類が無知であることを受け入れることは、それまで神が幅を利かせてた世界において、相当ハードルは高かったであろうことがすんなり理解できる。なるほどなるほど。
そんな死罪にかけるほどか?ガリレオかわいそう、ぐらいの理解であった私にとって(再びバカですまん)、人類が無知を受け入れる経緯の話しはかなり響いた。
そして、その大きなハードルを乗り越えると、科学っていうやつは走り出したら超速だった事実を2020年の現在でも日々感じることだ。
そして我々は「個の幸福」について考え始める
下巻の後半では巡り巡って、上巻でその発端に触れいてた、犠牲となってきた個の幸福の話となる。
農業革命以降、個々の存在をすり潰しながら全力でアクセルを踏み続けてきた人類が、科学的に「幸福」を解き明かそうとがんばっているらしい。
そういえば「幸福度」なんて言葉を聞いたことがあるな。と言っても、幸福の研究はここ数十年の話しとのこと。
自給自足を目指す身としては、狩猟採集生活に戻ればいいのではなど単純に思ってしまうが、70億が一斉に狩猟採集を始めると一瞬で地球は丸裸だ。
数年前から時折、瞑想する人がアメリカのドラマで登場するようになったと思っていたが、体系的に長きにわたって幸福を研究してきたのが仏教だという話しがおもしろい
宗教的な話しなどはめったにすることはないけれど、キリスト教とともに推し進められてきた価値観の大きな変化が感じられる下りでもあった。
「過渡期」なんてものは、常にどの時代も「過渡期」なのだろうと思うけれど、本作品としての一定の区切りとして結論的な言葉で本書は締めくくられる。
唯一私たちに試みられるのは、科学が進もうとしている方向に影響を与えることだ。 ~(中略)~ 私たちが直面している真の疑問は、「私たちは何になりたいのか?」ではなく、「私たちは何を望みたいのか?」かもしれない。 —263ページ
止まることのない技術の進歩や経済の拡大によって、できることは日々増加している。
でかい話としてはまったく分からないけれど、できる手段が無秩序に増えているけれど、「で、どうしたいの?」という話しならすごくわかる。
未来について考える
「虚構」を共有する能力を有して飛躍的な進化を遂げてきたホモ・サピエンスだけれども、目指す未来のカタチを全ホモ・サピエンスで共有する力はないわけで。そして本書でも語られていた、『歴史の中で輝かしい成功を収めた文化がどれもホモ・サピエンスにとって最善のものだったと考える根拠はない(下巻51ページ)』、のとおりであるわけで。
だからこそ『私たちは何を望みたいのか?』が、この先の未来を指すうえで大切なのだろうけれど、不安しかない。
コロナ渦真っ只中の5月、「「緊急対談 パンデミックが変える世界 ユヴァル・ノア・ハラリとの60分」 - ETV特集 - NHK」という番組で、著者ユヴァル氏がこの先の未来について語る場面があった。著者は人類が選択する未来について、意外と楽観的な見方をしているのだとの印象を受けた。
何といえばよいかわからないが、学べば、知を増やして思考していけば、氏のように希望を抱けるのだろうか?
とりあえず「ホモ・デウス」も読んでみよう。
著者について
ユヴァル・ノア・ハラリ
Yuval Noah Harari
1976年生まれのイスラエル人歴史学者。オックスフォード大学で中世史、軍事史を専攻して博士号を取得し、現在、エルサレムのヘブライ大学で歴史学を教えている。オンライン上の無料講義も行い、多くの受講者を獲得している。著者『サピエンス全史』『ホモ・デウス』は世界的なベストセラーとなっている。 — 本書より引用
訳者について
柴田裕之(しばた・やすし)
翻訳家。早稲田大学、Earlham College卒業。訳書に、リゾラッティ/シニガリア『ミラーニューロン』、カシオポ/パトリック『孤独の科学』、ガザニガ『人間らしさとはなにか?』、ドゥ・ヴァール『道徳性の起源』、リドレー『繁栄』(共訳)、ブオノマーノ『バグる脳』、アルバート『パーフェクト・タイミング』、コスリン/ミラー『上脳・下脳』、リフキン『限界費用ゼロ社会』、ファンク『地球を「売り物」にする人たち』など。 — 本書より引用