『紛争でしたら八田まで』の監修:川口貴久氏おすすめのスパイ映画5作品を見た
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長い前フリ
新型コロナウイルスによるパンデミック、ロシアによるウクライナ侵攻と立て続けに世界を揺るがす出来事が起こっている。
世界が大きく動いているとき、一般人の私にできることは何であるか。
連日の報道や世論に押し流されてしまわぬよう、何とか自分なりの考えを持ちたいという願望がある。
知に勝るものはないはずと信じ、なにかあれば私は新書を読むようにしている。
コロナ禍においては、「そもそもウイルスとは何か?」から始めた。
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その流れで偶然、『紛争でしたら八田まで』というマンガ作品のウクライナ編が無料公開されるというニュースを目にする。
講談社「紛争でしたら八田まで」のウクライナ編を無料公開 リスク管理の専門家が監修する地政学まんが
講談社は「Dモーニング」で連載している「紛争でしたら八田まで」のウクライナ編全6話を無料公開した。
海外のことがちょっと楽しくなる新連載!民族、言語、思想。違えばやっぱり、事件は起きる。住む場所変われば、起きる事件も、もちろん変化!それを眼鏡美人・八田百合、チセイ(と荒技)で解決!? 荒み疲れ果てた世界を、彼女が救う……!!?
この作品は「地政学」がベースとなっており、川口貴久氏という方が監修をされている。
デジタル大辞泉 - 地政学の用語解説 - 民族や国家の特質を、主として地理的空間や条件から説明しようとする学問。スウェーデンのR=チェーレンが唱え、第一次大戦後ドイツのK=ハウスホーファーが大成。ナチスの領土拡張を正当化する論に利用された。地政治学。ジオポリティ(ッ)...
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第9巻の巻末で、その川口さんが「スパイ映画」5作品をオススメしていた。
川口氏信者に片足を突っ込んでいる私は迷うことなく「5夜連続スパイ映画視聴祭」を敢行した。
いずれも見ごたえがあり考えさせられることも多かった。
これは記しておかざるを得ない。
以上が本記事の主旨であり、長い前フリ、以下本題。
視聴環境
私はAmazonプライムとNetflixで映像作品を視聴可能である。
他のサービスで視聴可能であるかは未調査であるので悪しからず。
これを書いている2022年5月18日時点では、5作中4作が通常サービスの範囲で見ることができた。
1作品のみレンタルのため追加で支出した。
作品名 | 視聴環境 |
---|---|
ゼロ・ダーク・サーティ | Amazonプライム |
シリアナ | Amazonプライム |
工作 黒金星と呼ばれた男 | Netflix |
フェア・ゲーム | Amazonプライム (レンタル407円) |
誰よりも狙われた男 | Amazonプライム |
スパイ映画5作品のあらすじと感想
まず冒頭に5作品を通じての所感を記しておきたい。
「スパイ映画」というと、「ダブルオーセブン」や「キングスマン」のような超エンタメ作品も含まれるのであろう。
だが地政学専門家によるオススメ作品だけあって、エンタメ要素は極めて薄い。
音楽、演出、アクションなどは無に等しい。
淡々としたドキュメンタリータッチの映像が永遠と続く。しかも長い。
「知られることのない諜報活動のドキュメンタリー」とは矛盾した表現だが、印象としてそうなのだから仕方がない。
しかし、いずれの作品も深く心に刺さる作品ばかり。
演出を排する演出に成功している作品群とも言える。
共通して改めて思うのは、「人の数だけ正義や正しさの形は異なる」ということ。
そして、「過去も今も恐らくこの先も人間社会は混沌(カオス)である」ということ。
良いか悪いか、という判断も極めて個人的な思いに過ぎない。
それをイヤというほど思い知らされる。
以下、地味で、長く、重たい5作品について個別の感想を記す。
ゼロ・ダーク・サーティ
あらすじ
2011年5月2日に実行された、国際テロ組織アルカイダの指導者オサマ・ビンラディン捕縛・暗殺作戦の裏側を、「ハート・ロッカー」のキャスリン・ビグロー監督が映画化。テロリストの追跡を専門とするCIAの女性分析官マヤを中心に、作戦に携わった人々の苦悩や使命感、執念を描き出していく。9・11テロ後、CIAは巨額の予算をつぎ込みビンラディンを追うが、何の手がかりも得られずにいた。そんな中、CIAのパキスタン支局に若く優秀な女性分析官のマヤが派遣される。マヤはやがて、ビンラディンに繋がると思われるアブ・アフメドという男の存在をつかむが……。脚本は「ハート・ロッカー」のマーク・ボール。主人公マヤを演じるのは、「ヘルプ 心がつなぐストーリー」「ツリー・オブ・ライフ」のジェシカ・チャステイン。
2012年製作/158分/PG12/アメリカ
原題:Zero Dark Thirty
配給:ギャガ — ゼロ・ダーク・サーティ : 作品情報 - 映画.com より引用
感想
空挺部隊による作戦シーンが唯一派手だが、それ以外は淡々と情報収集を行う諜報活動の裏側を描いている。
米国側の視点で、9.11の復讐が果たされるまでを描くストーリーである。
だが、同じ国家の元で活動するCIA局員の間にも微妙な目的や温度の違いがあり興味深い。
過去に、米軍が9.11の首謀者であるオサマ・ビンラディンを殺害したとのニュースを目にした曖昧な記憶がある。
本作により、それは9.11から10年という月日を経て果たされたものであり、実際に実在したとされる一人のCIA分析官の執念が実を結んだものであったことがわかる。
米国側の視点からすると「勝利の物語」であるかもしれないが、いったい誰の勝利なのか、誰のための戦いであったのか、など複雑な思いに駆られる。
シリアナ
あらすじ
「トラフィック」でアカデミー賞脚本賞を受賞したスティーブン・ギャガンが、全米ベストセラーとなったノンフィクション「CIAはなにをしていた?」(新潮社刊)を元に映画化した社会派群像劇。CIA工作員、アラブの王族、米国の石油企業、イスラム過激派テロリストら石油利権の周辺にうごめく人間たちの運命をドキュメンタリータッチで描く。ウィリアム・ハートやクリス・クーパーといったアカデミー賞俳優が脇を固めるほか、アマンダ・ピート、クリストファー・プラマーらが共演。
2005年製作/128分/アメリカ
原題:Syriana
配給:ワーナー・ブラザース映画 — 映画.comより引用
感想
タイトルの「シリアナ」は中東にある架空の国。
実のところ「サウジアラビア」。
実に地味でドキュメンタリー濃度の高い作品である。
また、石油依存を脱し近代化を図ろうとする中東国家の勢いを、自由の国アメリカが押しとどめようとする構図の残酷さは見どころのひとつであろう。
しかし、とにかく注目すべきプレイヤーが多い。
- CIA工作員
- シリアナ王国の後継者を争う兄と弟
- 兄に肩入れする米国の経済アナリスト
- 弟を抱き込み石油利権を維持したい米国オイルカンパニー
- オイルカンパニーと政府の間で暗躍する弁護士
- 石油利権を巡る国家間の争いに巻き込まれ失業してしまうシリアナの労働者
物語を理解するヒントは彼らの会話、画面に映った事実のみ。
しかしこれらを丹念に追ったとしても理解は難しいだろう。
なぜなら、描かれている出来事それ自体がとんでもなく複雑であるからだ。
人間の営みとして価値の大きなものには多くが群がり、コトはおのずと複雑となる。
対象は石油、21世紀においてなお巨額な金を動かす資源である。
できることなら原作を、最低限Wikiなどで登場人物と大筋をおさらいしておくことをオススメする。
今回見た5作品の中でもっとも骨が折れる作品だった。
しかし、単純化した言説や耳障りのよい話しなどでこの世界が簡単に理解できるわけがない。
あらためて思い知る良い機会となること受け合いの作品である。
工作 黒金星と呼ばれた男
あらすじ
北朝鮮の核開発をめぐり緊迫する1990年代の朝鮮半島を舞台に、北への潜入を命じられた韓国のスパイの命を懸けた工作活動を描き、韓国で数々の映画賞を受賞したサスペンスドラマ。92年、北朝鮮の核開発により緊張状態が高まるなか、軍人だったパク・ソギョンは核開発の実態を探るため、「黒金星(ブラック・ヴィーナス)」というコードネームの工作員として、北朝鮮に潜入する。事業家に扮したパクは、慎重な工作活動によって北朝鮮の対外交渉を一手に握るリ所長の信頼を得ることに成功し、最高権力者である金正日と会うチャンスもつかむ。しかし97年、韓国の大統領選挙をめぐる祖国と北朝鮮の裏取引によって、自分が命を懸けた工作活動が無になることを知ったパクは、激しく苦悩する。監督は「悪いやつら」のユン・ジョンビン、主演は「哭声 コクソン」「アシュラ」のファン・ジョンミン。
2018年製作/137分/G/韓国
原題:The Spy Gone North
配給:ツイン — 工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男 : 作品情報 - 映画.comより引用
感想
5作品のなかではもっとも演出が効いたエンタメ作品といえるだろう。
ストーリー展開も見事で予備知識があまり無くても楽しめる作品。
ただやはり、より深く作品を満喫するには朝鮮半島の近代史あたりはおさらいしておくことをオススメする。
また他4作品とは違った特徴が本作にはいくつかある。
ひとつは同じ言語を共有するかつては同じ国であった民族同士が対立関係にあること。
これはもどかしさと悲しさが入り混じる非常に複雑な感情をもたらす。
もうひとつは諜報の世界の話ではあるが、人間関係のドラマが前面に描かれていること。
ともすると人間味が薄い世界に感じられるリアルな諜報活動の世界において、この作品は血が通った人間同士の世界であることを改めて教えてくれる。
敵対する者同士、直接言葉にして伝え合うことができないもどかしさと、それでも通じ合う思いに胸が熱くなる。
フェア・ゲーム
あらすじ
03年3月に開始されたイラク戦争のきっかけとなった大量破壊兵器の存在。米外交官ジョセフ・ウィルソンはその存在そのものを否定するレポートを発表したが、米政府はそれを無視。さらに報復としてウィルソンの妻バレリー・プレイムが現役のCIAのエージェントであることマスコミに暴露する……。イラク戦争開戦をめぐり実際に起こった「プレイム事件」を「ボーン・アイデンティティー」のダグ・リーマン監督が完全映画化した実録サスペンス。出演は、バレリーにナオミ・ワッツ、ウィルソンにショーン・ペン。
2010年製作/108分/G/アメリカ
原題:Fair Game
配給:ファントム・フィルム — フェア・ゲーム : 作品情報 - 映画.com より引用
感想
1995年にも同じタイトルの作品があるが、これは2010年に公開されたもの。
本作が描く2003年の米国によるイラク戦争は、突如、半ば強引に米国がイラクに仕掛けた戦争として記憶している。
存在しない脅威をあると言い、平和のためだと他国に侵略する。
まさに現在起きているロシアによるウクライナ侵攻と同じ印象がある。
だが、独裁者による独断ではなく、民主主義国家の代表格ともいえる米国でなぜそのような事が起きたのかと言われると何も知らずにいた。
本作ではその辺りの背景となるCIAと政府の熾烈なやり取りから始まり、この作品を生む要因ともなった政府によるCIA工作員への報復などが中心に描かれている。
また、CIAというよりかは米国という国は、ほんとうに他国民を人間として扱わない国という個人的な印象がより深まる作品でもある。
諜報活動には対処国および周辺の関連国の一般市民も数多く巻き込まれ犠牲になる。
その辺りも含め、現在ロシアによる侵略戦争が行われている状況下でこの作品を見るとより一層深く刺さるものがある。
戦時下において、人は「殺す側」と「殺す側」の二手に、強制的に分けられてしまう。
だからこそ、戦争を始めてはならないのだと改めて強く思うのだ。
誰よりも狙われた男
あらすじ
スパイ小説の巨匠ジョン・ル・カレの同名小説を「コントロール」のアントン・コービン監督が映画化。2014年2月に急逝した名優フィリップ・シーモア・ホフマンの最後の主演作となった。ドイツ、ハンブルクの諜報機関でテロ対策チームを率いるバッハマンは、密入国した青年イッサに目をつける。イスラム過激派として国際指名手配されているイッサは、人権団体の女性弁護士アナベルを仲介してイギリス人銀行家ブルーと接触。ブルーが経営する銀行に、とある秘密口座が存在しているという。ドイツ諜報界やCIAがイッサ逮捕に向けて動きだすなか、バッハマンはイッサをわざと泳がせることで、テロへの資金援助に関わる大物を狙うが……。ホフマンがバッハマンを演じるほか、共演にも「きみに読む物語」のレイチェル・マクアダムス、「グランド・ブダペスト・ホテル」のウィレム・デフォー、「ラッシュ プライドと友情」のダニエル・ブリュールら実力派キャストが集結。
2013年製作/122分/G/アメリカ・イギリス・ドイツ合作
原題:A Most Wanted Man
配給:プレシディオ — 誰よりも狙われた男 : 作品情報 - 映画.com より引用
感想
9.11テロの作戦がドイツのハンブルグで立てられていたとは知らなかった。
そのため9.11以降、ハンブルグは諜報戦が活発化する。
その中でドイツ・ハンブルグの諜報機関とCIAによる、とある熾烈な諜報戦に絞って描かれたのが本作品である。
色々思うことや感想はとめどなく溢れるほどある作品なのだが、あまり書かずにおく。
とにかく、今回見た5作品のなかでもっとも良い作品であったことのみを書き記しておきたい。
視聴後の虚脱感は耐え難いほどであるが、個人的に強く強く強くオススメしたい作品だ。
あらすじで興味を持った方はぜひ見てみてほしい。
そして、改めてCIAはクソだと思う。
まとめ
人類は相手の裏をとって物事を進める営みを何千年も続けてきたし、きっとこの先も続けて行くのだろう。
そしてこの諜報活動に凝縮されるような行動は、何も人間のみにあらず、自然界にも数多くある生物が持ち得る本能的なものなのだろう。
ただ、そこで犠牲となる数多くの人生とはいったい何なのであろうかと、一市民の私などは途方に暮れてしまう。
かなり充実した五夜であった。だが現実と裏ばかりの作品だったがゆえ少々鬱気味である。
フィクション、エンタメがひどく恋しくなる副作用付きの試みだった。
もしどれかの作品を見た方や、同じく『紛争でしたら八田まで』をキッカケに見たなどの方がいらしたら、ぜひ何かコメントやmastodon(@neputa@fedibird.com)などで教えていただけると嬉しい限り。
最後までお読みいただき感謝感激。
それではみなさま良き映画ライフを。
Top Photo by:Craig Whitehead on Unsplash