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Netflixおすすめドラマ『You Don't Know Me』 英国発の法廷ミステリ

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『You Don’t Know Me』の概要

英国Londonの「法廷」が主な舞台。

主人公は車のセールスマンである青年。

法廷における立場は「被告人」。

理由は後述するが、彼は「South London」で暮らす「黒人」であることを付け加えておく。

4話完結の短いドラマだが一話一話が濃くて重たい。

ドラマは検察による物証陳述でドラマは幕を開ける。

列挙された証拠はいずれも「被告が被害者を拳銃で殺害した事実」を十分に裏付ける内容だ。

これは主人公が終身刑の審判を受けるまでの物語かと思われる。

だがその安易な予想は被告側の最終弁論で鮮やかに打ち破られる。

被告は弁護士を解雇しており自ら証言台に立つ。

彼の主張は「無罪」。

そして、「証拠というものは検察にとってすべてであるが、証拠だけでは真実を知ることはできない」と指摘する。

ここから長い長い最終弁論が始まる。

このドラマは法廷における彼の陳述を背景に、その時々の状況が映像で映し出される構成となっている。

そして視聴する私たちは、証拠は真実を裏付けるものとは限らない現実を突きつけられる。

この事件は人間関係やコトの次第が複雑に入り組んでいる。

ともすれば作為あるいは思考実験のような側面が見え隠れする。

だがしかし、演者たちの見事な演技、配慮の効いた演出がリアリティを最後まで維持してくれる。

絶望的とも言える物証の裏に隠された背景が検察側の主張とは異なる形で1つ1つ明らかにされていく。

非常にスリリング、とにかく見応えがある。

グイグイと引き込まれる展開が続くため、一話60分がアッという間に過ぎ去る。

概要や主な見どころは以上。

予備知識なくとにかく視聴してみることをオススメしたい。

以降は補足説明と感想を記す。

ドラマの舞台「London」に関する補足

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Photo by HowTravel

普通に暮らしている若者が、こんな複雑な事件に巻き込まれるものなのか?

Londonの警察は無能なの?なぜギャングを放置してるの?

Londonは私がかつて暮らしていた町でもあるので語れる範囲で補足説明を試みたい。

また「South London」「黒人」というワードを敢えて入れた理由についても触れる。

Londonのエリアについて

ドラマ内で「North」「South」というワードが登場する。

Londonの南側は古くから労働階級の人々のエリアであり比較的黒人が多く住んでいる。

このSouth - Northの大まかな分岐線はテムズ河。

ステレオタイプな表現をすると、つまり主人公たちが暮らすSouth Londonは貧困率が高く、ギャングのような人々が多く暮らしているエリアとなる。

犯罪について

私は現在東京で暮らしている。

数字ではなく印象ベースの話しで申し訳ないが、治安に関してはLondonで暮らしてい頃と比較すると、俄然いまの東京の方が安心する。

かつて階級社会であった日本は戦後、一度リセットがなされたものの、再び経済格差が広がりつつある。

だが英国は一貫して格差・階級社会の大先輩。

貧する者がいるのは当然のこと、その階層における事件やトラブルはあたかも自然現象であるかの如く放置されている。

何が言いたいかと言うと、South Londonで暮らしている黒人の男性がギャングたちのトラブルに巻き込まれて命が危ないと警察に相談したとして果たして真剣に取り合ってもらえるのだろうか?

こういった背景を想像してみると、このドラマにおける個々のエピソードは起きうる事実として捉えることができるのではないだろうか。

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『You Don’t Know Me』の感想

印象的なシーン

Council Flats

カウンシル・フラットの光と影 - 英国公営住宅の建築事情

- 英国ニュース、求人、イベント、コラム、レストラン、ロンドン・イギリス情報誌 - 英国ニュースダイジェスト

主人公とカイラの最初のデート(カルボナーラをふるまう)のあと、彼女を自宅まで送り届けるシーン。

カイラの住まいは「Council flats(以降、公営団地とする)」だった。

彼女は経済的に苦しいのだと察してしまった。

東京では「タワマン」と称し富の象徴である高層建物。

だがLondon郊外においては逆である。

公営団地が立ち並ぶエリアは空気が違う。

映画『トレインスポッティング』にも登場するアノ感じ。

貧しさと犯罪をイコールで結ぶことは間違っているとは思う。

だがどうしてもトラブルが起きやすい環境であることは拭い難い事実であろう。

社会でまっとうに生きる立場を獲得できた主人公とは生きてきた環境の違いが彼女との間に存在することを象徴づけるシーンだった。

カイラの言葉

カイラ
Photo by Media Centre

車にいたずらしている子どもを主人公が𠮟りに出ようとしたシーン。

カイラは「彼にもきっと事情がある」と止めた。

そして、叱りに行くなら別れるとまで言い放つ。

そう、事情があるのだ。

「トラブルや犯罪を起こすようなヤツらは自業自得、自己責任」、と言える方はとても幸せな環境で生きている証であり、それがこの先も続くことを願う。

一方、ドラッグを売ったり暴力に身を置く者たちは、生まれたときからそうなりたかったのだろうか?

ハイハイから立ち上がれるようになり、言葉を覚え話し始めた頃からそうなりなかったのか?

カイラは、それぞれが抱える避けがたい現実というものが、この社会には存在することを主人公に分かってもらいたかったのだ。

主人公の母「Abebi」

Abebi
Photo by Media Centre

彼女が登場するエピソードはいずれも強く印象深い。

主人公の同級生カートをイジメから助け、カイラを家族同様受け入れ、温かい食事をふるまう。

彼女が声をかけ手を取り合って祈りを捧げるシーンは、彼女の人生観や家族への愛が存分に表現される場面だ。

カイラは、主人公が持つ優しさの理由は、一日も欠かすことなく愛を受けてきたからだと指摘する。

その愛情を注いだ人物こそ、母「Abebi」である。

人類が今日まで続いてこれたのは、名のある英雄や偉人などのおかげなどではない。

きっと彼女のような人たちがいたからこそだと私は思っている。

ドラマを観終えて

このドラマは、「証拠による立証の限界」「法と倫理のジレンマ」「経済格差による社会構造問題」などいくつかのテーマを描いた作品だと思う。

事件に巻き込まれた主人公、彼の家族、カイラは法の下では加害者である。

そして、殺された売人ジャミル、彼のボス、カムデンで主人公に撃たれたギャングなど彼らが行っていることも同様、社会における加害行為であろう。

あなたはどの立ち位置で見るのか、この作品はそれを問うているのだと私は感じた。

すべてを観終えたとき、私はただただ悲しかった。

このドラマは「悲劇」だと感じた。

主人公たちやギャングたちみなみなが可哀そうでならなかった。

このドラマの作り手の根底に深い怒りと悲しみを感じるのだ。

そして温かい部屋でこの作品を見ている私はたまたま運がよかったのだとも。

『You Don’t Know Me』をおもしろいと思ったらぜひこちらも

『ある告白の解剖』 Netflixドラマ

こちらも先日見た作品で、『You Don’t Know Me』と同様に法廷を主舞台とした作品。

かつて不倫関係にあった二人の別離後に起きた性行為がはたしてレイプであるかを問う裁判である。

性行為における同意をの有無を立証する難しさ、 政治家として、父として優れた人物とされた男の正体、物語の背景にある検察官のロングストーリーなど見どころ満載の法廷劇。オススメ。

『テロ』 書籍・戯曲

打って変わってこちらは小説。しかも、戯曲の台本という体裁のめずらしい小説作品。

著者はドイツの現役刑事弁護士であり小説家でもある「フェルディナント・フォン・シーラッハ」。

裁判劇である。

対象となる事件はドイツ国内で起きたある架空のテロ事件について。

ハイジャックテロにより164人の乗客を乗せた旅客機が7万人の観客がいるスタジアムに突っ込む。

追跡していた少佐は指令に反し旅客機を撃墜した。

独断で164人より、7万人の命を優先したのだ。

人間の尊厳に重きを置くがゆえに生じる矛盾を突くのが現代のテロである。

人間の尊厳をもっとも尊重すべきとする我々はどうすればよいか。

『You Don’t Know Me』の結末を見て、真っ先に思い浮かんだのがこの小説だった。

同様に結末が「有罪」「無罪」の2パターン用意されている。

つまり選択は私たちに問われている。

さまざまな国で舞台化され観客に評決を問うなど興味深い試みがなされたようで、こちらの記事に情報を掲載しているので興味があったらぜひ一読を。

『テロ』 フェルディナント・フォン・シーラッハ 【読書感想・あらすじ】

個人的にいま最も熱いのが「フェルディナント・フォン・シーラッハ」である。いや、これまでの読書歴においてナンバーワンであるといっても過言ではない。全作を読破しよう!とデビュー作から読み始め、本作『テロ』である。硬質かつ簡潔な文体が特徴のシーラッハ作品であるが、本作においてはとうとう小説という殻すらも脱

さいごに

映画ドラマ小説問わず、個人的にもっとも惹かれるのは法廷ミステリである。

社会を構成し生き延びてきた私たち人類が、社会の規律を維持する装置として発明した「裁判」。

「人を裁く」という神の領域に足を踏み入れるにあたり、私たちは法・倫理・哲学・医学・科学などありとあらゆる知見を持ってのぞむ。

法廷は人知の集大成の場であると認識している。

そのような場で繰り広げられる出来事は軽犯罪であろうと、大事件であろうと興味深い。

加害者としてか被害者としてかは分からないが社会に身を置くものである以上、私を含め誰もが当事者の可能性がある。

本ドラマは見る側に多くを問いかける内容であり非常に考えさせられる作品だった。

拙い個人的な文章を最後まで読んでいただき深く感謝申し上げたい。

またおもしろい法廷ミステリ作品などをコメント、mastodon(@neputa@fedibird.com)で教えていただけるとうれしい。

Top Photo by:BBC Courtroom

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